「雪女」出雲弁訳 まとめ

【出雲弁訳、完成しました!

 翻訳しながらの議論(と無駄話)は、過去記事をお楽しみください】

 

 

 

「雪女」 

 

【翻訳第一夜】

1)武蔵の国のなんだいいう村に、茂作、巳之吉という二人の樵(きこお)さんがおったとね。

2)こーから話すことがあったときには、茂作はもうお爺さんになっちょらいたと。

3)そーで、そのさんとこで働いちょーなった巳之吉は、十八だったとや。

4)毎日、そのさんやつは、だいたい二里ほど離れちょったかいなあ、

  一緒に森へ出かけちょーなったわ。

5)行きしに、大(お)っきゃん川を渡らんといけんでね、だけん渡し船があったと。

6)渡しのあーとこには、度々(たんびたんび)橋を架けえだども、大水が出えたんびに、流さいたわ。

7)川があふれえと、並みの橋じゃあもうどげしゃもないけん。

 

 

【翻訳第二夜】

8)茂作と巳之吉は、がいに寒(さむ)晩、帰りしにマゲな吹雪に巻き込まいてのお。

9)二人が渡し場についてみいと、なーんと、船は、こっちに無(な)てのお。

  向こう岸にあったとや。渡し守さんは、もうえんじょーなったと。

10)そおでまた、泳げえやな日でもなかったけん。

11)だけん、きこりさんやちゃ、渡し守の小屋に逃げなったわね。

  そぎゃん場所が見つかって、まあほんによかったと、思いなったと。

12)そーがなあ、なーんと、小屋には、火鉢がなかったとね。

   火を焚かかと思っても、しゃん場所もね。

13)窓だい何(なん)だいない、二畳(にじょ)ほどの小屋でのお。

14)茂作と巳之吉は、戸をつめて、蓑(みの)掛けて、休まかと思って横んなった。

15)始めのうちは、しゃんに寒い気もさんだったし、嵐も、じきに止(や)んと思っとった。

16)オジジのほうは、すぐに寝なったとね。

17)だども、若け巳之吉は、長げこと、起きちょった。

   風は鳴あし、雪は戸に当たあし、おぜ音がしちょったとね。

18)河はごうごう鳴って、小屋は海の上の小舟なやに揺れて、みしりみしり鳴っとった。

19)ま〜あ、おぞい、大(おお)吹雪だったと思いないや。

20)あたりは、一刻一刻冷えてきて。そーで、巳之吉は、蓑(みの)の下で震えちょーなったと。

21)そーだに、やっぱ寒さには勝てんで、巳之吉も寝てしまった。

 

 

【翻訳第三夜】

22)顔に雪が激しく掛かあけん、みのきちは目が覚めた。

23)小屋の戸はこじ開けらいたやに開いちょった。

24)そおで、雪明りに照らさいて、部屋の中におなごが、、、

  上から下まで白装束のおなごが居(お)った。

25)おなごは、茂作の上に屈(かが)んで、息を吹きかけとった。

26)その息は、白くてまぶしい、煙なやだった。

27)と思っちょー間に、こんだ、巳之吉のほうを向いてかがんだ。

28)巳之吉は、叫ばかと思ったに、何(なん)だい声が出らんだった。

29)白いおなごは、ジネンジネンに屈(かが)んこんで、

  しまいにゃ、顔が当たあ程(ほど)んなった。

30)おなごは、えらいエエニョバさんだったけど、

  なんと、その目はなあ、ほんにおぞかったと。

31)ちょんぼしなかい、おなごは、巳之吉をじっと見ちょった。

32)そげして、ふと笑って、こまい声でささやいた。

33)「あんたのことも、このさんと同じ目にあわさかと思ったども。

34)何(なん)だい、憐れなやな気がして。あんた、まだ若いけんねえ。

35)あんたは、ええオトコだけん、巳之吉。

  もう、何(なん)だい、あんたにはさんけん。

36)だども、もし、あんたが、今晩見たことを、ちょんぼでも誰かに話(はな)いたら、

  そうがあんたのおっ母さんでも。私にゃ分かーけんね。そげしたら、おまえを殺いちゃる。

37)……私の言いことを、くれぐれも、忘れえだないよ。」

38)そげ言いと、おなごは、顔を離いて、戸から出ていったげな。

 

 

【翻訳第四夜】

39)そのあと、巳之吉は、自分が動(いご)けーことがわかって、跳ね起きて外を見た。

40)だども、おなごはどこにもおらんだった。

41)そーで、雪は小屋の中へ、激しに吹き付けちょった。

42)巳之吉は戸をつめて、それにつっかい棒を、何本も立て掛けた。
43)巳之吉は、風が戸を吹き飛ばいただらかと思った。――あら、夢だっただらか。――
44)そーで、戸口の雪明りを、白いおなごと見違いただーかと思った。
45)だどもそーも、確かではなかった。

46)巳之吉は、茂作を呼んでみた。

47)そげしたら、茂作は返事さん。何(なん)だい、えなげな気がした。
48)巳之吉は、暗いなかで、手を伸ばいて、茂作の顔を撫でてみた。

49)そげしたら、氷なやだった。
50)茂作は硬くなって死んじょった。

 

51)明(あか)になったら、吹雪はやんだ。
52)日が出てちょんぼしして、渡し守が小屋に来うと、

  茂作の凍(こご)った身体のそばで、巳之吉が気を失って倒れちょった。

53)巳之吉は、すぐに介抱さいた。そーで、じきに、正気に戻った。
54)だども、巳之吉は、そのおぞい夜の寒さのせいで、長げこと、寝こんじょった。

55)巳之吉は、茂作が死んでからというもの、えらい怯えちょった。
56)だども、巳之吉は、白いおなごの事は、一言も言わんだった。

57)巳之吉は、ようやく元気になあと、仕事に出えやになった。
58)毎朝、一人で山へ行っては、晩方(ばんかた)、たきぎを背負って帰った。
59)巳之吉のオカカは、巳之吉をテゴして、そーを売った。

 

 

【第五夜】
60)明くう年の冬の晩かた。巳之吉は、ウチに戻お途中に、

  たまたま同(おんな)し道を歩いちょった、旅の若けオナゴに追いついた。
61)そのおなごしは、背(せい)の高け高け、ほっそーした、エラい、ええにょばだった。
62)巳之吉のあいさつに答えた娘さんの声は、まーで、

  小鳥(ことお)が歌っちょーやで、ええ心持(ここーも)ちのすー声だったと。
63)そーから巳之吉やつは、並んで話をしだいた。
64)その娘さんは、名前を「お雪」と名乗ったと。
65)そーから、先途(せんど)、二親(ふたおや)とも 亡(な)あなったこと、

  だけん、江戸へ行かかと思っちょーこと。そこに、何軒か、貧乏な親戚がおーこと。

  そのさんがたが、女中の働き口を見つけてごしなーはずだ、てことを話いた。
67)美濃吉は、じきにこの見かけん娘さんが、何(なん)だい知らんけど、好いたげな気がした。

  そーに、見りゃ見いほど、よけごと、べっぴんさんに見えてきた。
68)美濃吉は、お雪に、「おまえさん、ええシがおってかね」、と聞いた。

  お雪は、笑いながら、「そぎゃんシは、おーませんで」、とこたえた。
69)そげしたら、こんだ、お雪が、

  「お前さんこそ結婚しちょらいかね、そーか、約束でもあーかね」、と聞いた。
70)美濃吉は、お雪に、

  「世話さんといけんおっ母あは居(お)ーけど、

  わしもまだ若けけん、嫁さんのことは考えたこともねわ」と、答えた。
71)……こぎゃんやな、打ち明け話をしたあとは、

  二人(ふたー)して、長げこと、黙って、歩いちょった。
72)だども、よー言うやに「目は口ほどに物をいい」だわね。
73)村に帰ってくう時分(じぶん)には、お互いにえらい気に入っちょったげな。

 

【第六夜】

74)そーから、そんとき、巳之吉は、「ちいとなかい、オラんとこでタバコしてかんかね」とお雪に言った。

75)そのおなごは、チョンボシ恥(は)つかしげにしちょったが、しまいにゃ、巳之吉の家に行った。

76)そおから、巳之吉のオカカは、お雪を家(うち)に上がらして、暖ったかいもんをゴッツオオした。

77)巳之吉のオカカは、お雪があんましよーできた娘だけん、いっぺんで気に入ってしまって、お雪に「江戸へ立つのを遅らしたらどげかね」と勧めた。

78)まあ、しゃんことで、お雪は、とうとう江戸には行かんで、その家に残おことになった。

79)そーで、お雪は、本式に嫁ごさんになったと。 

80)お雪は、ほんにいい嫁さんだったと。

81)五年ばっかして、巳之吉のオカカが、亡(な)あなった。オカカは、最後まで、嫁さんがホンにエスコにしてごいたと、喜んどった。

82)お雪は男んこ、おなごんこを10人も産んだ。みんな、ええにょば、ええおとこで、肌が透けえやに白かったと。

83) 近所の衆(す)やちゃ、お雪をハナから、わーわと違あ、ホンに不思議なしと思っちょった。

84)大概(たいげ)の百姓のおなごは、早(は)えこと年とおもんだが、お雪は、10人の子供を生んだにかーに、初めて村に来た日と同(おんな)しやに、若々(わかわか)して変わらんやに見えた。

 

【第七夜】

85)そーで、ある晩のことだわ。こどもやちが寝たあとで、お雪は行燈の明かりの下で、縫いもんをしちょったと。

 

【第八夜】

86)みのきちは、お雪をじっと見ながら、言った。

87)お前がしゃんやに、針仕事をしちょって、顔に明かりが当たっちょおのを見いとなあ。
わしがまんだ十八の頃にあった、えなげなことを思い出すわ。

88)そん時ワシはのお。今のお前なやな、ほんに色の白い、エエニョバを見たわや。

89)ま、ほんに、その女はお前に瓜二つだったわ。

90)縫いもんから目を上げんこに、お雪は、言った。

91)そのしのことをきかしてごしない。どこであいなったね。

92)そーから、みのきちは、渡し守の小屋で過ごした、オゾかった晩の話をした。

93)わらってささやきながら、自分の上にかがんこんだ白い女のこと。そーから、茂作じいさんが、何だい言わんで死んだこと。

94)夢でもなんでも、お前なやなエエニョバをみたのはあんときほどだわ。

95)もちろん、あら、人間だなかった。わしは、おぞてのー。

96)ほんにおぞかったわ。だとも、その女は、ほんに色が白て・・・。

97)……だども、わからんに。ワシが見たのは、夢だっただあか、そーとも、あーは。雪女だあか。

 

【第九夜】

97)…… だども、わからんに。ワシが見たのは、夢だっただあか、そーとも、あーは、、、雪女。

98)―― お雪は、縫い物をほおた投げて立ち上があと、ねまっちょったみのきちの上にかがんこんで、おっきゃん声を出いた。

99)そーは、そーは、そーが、私だったわね。このゆきでしたわね。

100)そんとき、もしも話いたら、わを殺いちゃるっていったがね。

101)……そこに寝ちょる子供やちがおらんだったら、ここで殺いちょったに。

102)…… だけん、子供やちを大事に大事にさないけんよ。 もし、あんたのせいで、子供やつになんぞごとあったら、おぜめにあわせちゃる。

103)おゆきは叫んじょるに、声はまるで風が泣いちょるやに、じねんに細んなっていった。

104)そーから、おゆきは、きらきらした白いモヤなやんなって、震えながらたちのぼって、消え去った。

105)……そおを最後に、もう、おゆきを見いことはなかった。

 

出雲弁で「雪女」(第9夜ー5)

104)――それから彼女は輝いた白い霞となって屋根の棟木の方へ上って、それから煙出しの穴を通ってふるえながら出て行った。

そーから、おゆきは、きらきらした白いモヤなやんなって、震えながらたちのぼって、消え去った。

 

お雪の心残りを表している。

 

 

105)……もう再び彼女は見られなかった。

そおを最後に、もう、おゆきを見いことはなかった。

 

「これはハッピーエンド。みのきちがしっかりと子育てしたから雪女は現れなかったのだ」、という意見に、参加者からちょっと笑いが起こった。

出雲弁で「雪女」(第9夜ー4)

102)でも今あなたは子供等を大事に大事になさる方がいい、もし子供等があなたに不平を云うべき理由でもあったら、私はそれ相当にあなたを扱うつもりだから』

…… だけん、子供やちを大事に大事にさないけんよ。 もし、あんたのせいで、子供やつになんぞごとあったら、おぜめにあわせちゃる。

 

「でも今・・・」は母親でやさしい感じ。そのあとは妖怪らしく強めに読むという意見も。ここは別コラムを立てるが、翻訳のメンバーの解釈が最もわかれた部分。

 

 

103)彼女が叫んでいる最中、彼女の声は細くなって行った、風の叫びのように、

おゆきは叫んじょるに、声はまるで風が泣いちょるやに、じねんに細んなっていった。

 

英文で「叫ぶ」は「scream」と書かれているので、雪女の声自体は鋭いのに音量が減っている感じ。

彼女のパワーがダウンしているのではなく、ボリュームが絞られるように小さくなっていく。

雪女は、身分がばれた以上、地上に滞在できる時間が切れたので、いかねばならぬ。呼ばれるように消えていく感じ?

出雲弁で「雪女」(第9夜ー3)

100)そしてその時あなたが、その事を一言でも云ったら、私はあなたを殺すと云いました。

そんとき、もしも話いたら、わを殺いちゃるっていったがね、

 

英語の原文を読むと、叫んだ後に「!」マークが合計4カ所。

「ゆきでした。殺すといいました!」と、激しい心の動きが読み取れる表現。

 

そのばあい、雪女は巳之吉を「あなた」と呼ぶか、「おまえ」と呼ぶか。

ここでも、雪女という立場をどう解釈するかの議論があった。

 

 

 

101)……そこに眠っている子供等がいなかったら、今すぐあなたを殺すのでした。

・・・そこに寝ちょる子供やちがおらんだったら、ここで殺いちょったに。

 

恐ろしい雪女も、子供について言及するときには、やさしい言葉遣いになる。

出雲弁で「雪女」(第9夜ー2)

98)お雪は縫物を投げ捨てて立ち上って巳之吉の坐っている処で、彼の上に屈んで、彼の顔に向って叫んだ、

―― お雪は、縫い物をほおた投げて立ち上があと、ねまっちょったみのきちの上にかがんこんで、おっきゃん声を出いた。

 

芝居のト書きみたいなもの。 「叫んだ」の訳には、「ほえた」「おめいた」「意地声(いじごえ)を出いた」などが出た。

出雲弁ではあまりヒステリックになって叫ぶようなぴったりした言葉がない。

 

 

99)『それは私、私、私でした。……それは雪でした。

そーは、そーは、そーが、私だったわね。このゆきでしたわね。

 

「雪」というのは自分のことだが、それをどう言うかに難儀した。

「さ、おらだわの。」とそのまま訳すと、ちょっとおばあさんのようなのでもっと美人っぽくしたい、育ちのよい上品な感じにしたい、という意見があった。

出雲弁で「雪女」(第9夜ー1)

97)……実際わしが見たのは夢であったかそれとも雪女であったか、分らないでいる』……

、、、だども、わからんに。ワシが見たのは、夢だっただあか、そーとも、あーは、、、雪女。

 

第8夜に訳した部分だが、第9夜は「そーとも、あーは、雪女だっただーか」というしめくくりの訳を見直すことからスタート。

 

英文の巳之吉のセリフは "snow woman..."と、文を完結していない、言い終わっていない形で終わっている。

 

しかもここでこの小説の中で初めて「雪女」というカギになることばが登場し、それをきっかけに雪女が自らの正体を明らかにする大事な部分なので、それに従って、「そーとも、あーは、雪女・・・」とし、だーかがないほうがよいということで全員一致。

プチ朗読会(?)、10月13日です

先日、ついに翻訳が最後まで終了!

ゆっくりゆっくり、準備も含めるとほぼ1年がかりでした。

参加していただいた方々、みなさんありがとうございました!



参加者で今後の話を相談したところ、

今までの翻訳のツメをすることになりました。


10月13日(土)夜7時から、いつもの松江の古書店、冬營舎の予定です。


有志が交代で少しずつ朗読して手直しする形にしようと思っています。

今まで同様、出雲弁を話さない方も歓迎!

出雲弁で読みたい人、聴きたい人、ご参加をお待ちしています。


次回は8月18日(土)です

おそらく次回は物語の最後まで訳せるでしょう。

 

そして、今までずっと水曜にやってきたこの会、今回は初の土曜日開催。

お時間のある方は是非。

 

 

 

出雲弁で「雪女」(第八夜ー6)

96)――大変恐ろしかった、――がその女は大変白かった。

ほんにおぞかったわ。だとも、その女は、ほんに色が白て・・・。

 

97)……実際わしが見たのは夢であったかそれとも雪女であったか、分らないでいる』……

・・だども、わからんに。ワシが見たのは、夢だっただあか、そーとも、あーは、、、雪女だっただあか。

 

出雲弁で「雪女」(第八夜ー5)

94)そして彼は云った、―― 『眠っている時にでも起きている時にでも、お前のように綺麗な人を見たのはその時だけだ。

夢でもなんでも、お前なやなエエニョバをみたのはあんときほどだわ。 

 

95)もちろんそれは人間じゃなかった。そしてわしはその女が恐ろしかった、

もちろん、あら、人間だなかった。わしは、おぞてのー。