次回は6月6日

次回の出雲弁で雪女は、

6月6日7時から、

松江の冬營舎です。

次回5月23日(水)は中止します

次回の『出雲弁で「雪女」』、5月23日は中止します。

すみません!


次は、六月の早いところの水曜日を考えています。決まったらまたご報告します。


とにかく、残念!

「雪女」 その出生の秘密

ハーンの『怪談』に収められたお話の多くは、

日本や中国の物語、そしてセツたちが聞いた話などをもとにしています。

 

大部分は出典が明らかになっていて、ハーンの創作がどのように加えられたかも

明らかになっています。

ほんと研究者ってすごいですね。

 

ただ、こと「雪女」についていえば、明確な出典はないというのが主流のようです。

そして、私が見る限り、雪女の出典が、いちばん謎めいています。

もし、出典があるとしたら、ですが。


 

 

『雪女』の物語の誕生が謎に包まれている一方で、

物語が誕生した後にどう流布していったかについては、いろいろな研究がありました。

 

たとえば、

『〈転生〉する物語―小泉八雲「怪談」の世界』遠田 勝(新曜社2011)は、

「雪女」の物語の源泉を探って調査をくりひろげる探偵小説みたいな本で、

著者の調査の足取りが述べられているのですが、

それによると、雪女のもとになった話などない。

(もしかしたら、「雪女」という言葉や、断片的なイメージはあったかもしれないけれど)

 

そのかわり、

 

【驚くべきことに】

 

「雪女」は、八雲が作りあげた後しばらくして、

その日本語訳が、さも白馬岳や安曇野の民話であるかのように流布した、

のだそうです。

 

 

『「雪女」の”伝承”をめぐって−口碑と文学作品−』 牧野陽子(1992)の論文では、

遠田氏の『<転生>する物語』に指摘されているように、

ハーンの「雪女」が各地の民話であるかのように受容されていったことは事実だけれども、

多くの(ほとんどの)民俗学者は、そのことを当然としているのに、

それをセンセーショナルに語るのは間違っている、

ということが(割と強めの筆致で)指摘されています。

 

なるほど、民俗学者にとっては、『雪女』は民話にはなく、

ハーンの創作であることは定説だったんですね。

 

ただ、ここでも「雪女」のもととなった民話が存在しないことは語られていますが、

『雪女』がどう誕生したのかは、謎のままです。

 

極端な場合、この「雪女」だけ、ハーンの完全な創作ということすらあり得ます。

(その場合、物語の語り出しの“武蔵の国西多摩郡調布の百姓が語った伝説"というのも、

ハーンが物語にリアリティを加える創作ということになります)

 

でも、

再話にあれだけ価値を見出していたハーンが、『雪女』だけ、

全くのオリジナルから書き上げたというのも、なかなかうなづきにくい話です。

謎は深まるばかりです。

 

。。。。。。。。。。。。。。

 

「出雲弁で『雪女』」のプロジェクトを立ち上げる前、ハーンの何の話を訳そうと考えたときは、

割と考えなしに直感で『雪女』を選んでしまったのですが、

ハーンの数々の怪談の中でも、特に謎に包まれた物語だったということが

わかってきて、いよいよ翻訳が楽しくなっています。

雪女と、巳之吉の母

第六夜のための準備をしていて気が付いたことが。

実は、巳之吉のお母さんって、ものすごく

このストーリーにとって大事なのではないでしょうか。

 

と、突然言われても困ると思うので、順をおってお話します。

 

 

第五夜の翻訳のあいまでとても盛り上がったのが、

「恋話としての「雪女」」でした。

まず、雪女を巳之吉の恋愛という視点で読み替えるとおもしろい、

と提案したのが発端でした。

たとえば、こんなふうに。

 

 

 

デキる先輩の(木こりの師匠の茂吉)のもとで働いていたら、

あるときそこに美しい女(雪女)がやってきて、

先輩と女は若者(巳之吉)を見捨てて消えていく

(=雪女が茂吉を殺す)。

先輩とあこがれの女性を失って(茂吉が亡くなり、雪女も消えて)

若者(巳之吉)は失意に暮れる

【若者はしばらく、母と静かな暮らしをして心の傷を癒す】

心の傷が癒えるころ、若く美しく、それでいて

先輩と一緒に姿を消した女にどことなく似ている女(お雪)と出会う

妻にする

【母が亡くなる】

妻に昔の恋の話(雪女が茂吉を殺した話)をする

妻は怒り、子供を残して家を出てゆく(雪女は消えてしまう)

 

 

で、会のメンバーと話していたときには気づかなかったのですが、

【 】で囲ったところ、巳之吉の転機となるタイミングで、

2回とも母親が大事な働きをしています。

 

一度目は、恋の傷をいやして生活を立て直す時、巳之吉の心の支えとして。

二度目は、母が亡くなったことで、昔の恋を思い出す呼び水として。

 

雪女(お雪)と、巳之吉の母が重なっている時は、

雪女は実におとなしく優しいんですよね。

 

母の庇護を離れた船小屋にいるときも、

母がなくなったあと部屋にいるときも、

お雪は巳之吉の脅威になる、、、、。

 

お母さんが巳之吉を守っているし、ある意味行動を縛っている。

 

これ、単純に巳之吉がマザコンです、という話だけでもないように

想うのですが、どう考えたらいいのでしょうね。

 

 

「雪女」出雲弁訳 まとめ

【進行中の出雲弁訳をまとめたページです。

 最後には「雪女」の全訳になる予定です。

 翻訳しながらの議論(と無駄話)は、過去記事をお楽しみください】

 

 

 

「雪女」 

 

【翻訳第一夜】

1)武蔵の国のなんだいいう村に、茂作、巳之吉という二人の樵(きこお)さんがおったとね。

2)こーから話すことがあったときには、茂作はもうお爺さんになっちょらいたと。

3)そーで、そのさんとこで働いちょーなった巳之吉は、十八だったとや。

4)毎日、そのさんやつは、だいたい二里ほど離れちょったかいなあ、

  一緒に森へ出かけちょーなったわ。

5)行きしに、大(お)っきゃん川を渡らんといけんでね、だけん渡し船があったと。

6)渡しのあーとこには、度々(たんびたんび)橋を架けえだども、大水が出えたんびに、流さいたわ。

7)川があふれえと、並みの橋じゃあもうどげしゃもないけん。

 

 

【翻訳第二夜】

8)茂作と巳之吉は、がいに寒(さむ)晩、帰りしにマゲな吹雪に巻き込まいてのお。

9)二人が渡し場についてみいと、なーんと、船は、こっちに無(な)てのお。

  向こう岸にあったとや。渡し守さんは、もうえんじょーなったと。

10)そおでまた、泳げえやな日でもなかったけん。

11)だけん、きこりさんやちゃ、渡し守の小屋に逃げなったわね。

  そぎゃん場所が見つかって、まあほんによかったと、思いなったと。

12)そーがなあ、なーんと、小屋には、火鉢がなかったとね。

   火を焚かかと思っても、しゃん場所もね。

13)窓だい何(なん)だいない、二畳(にじょ)ほどの小屋でのお。

14)茂作と巳之吉は、戸をつめて、蓑(みの)掛けて、休まかと思って横んなった。

15)始めのうちは、しゃんに寒い気もさんだったし、嵐も、じきに止(や)んと思っとった。

16)オジジのほうは、すぐに寝なったとね。

17)だども、若け巳之吉は、長げこと、起きちょった。

   風は鳴あし、雪は戸に当たあし、おぜ音がしちょったとね。

18)河はごうごう鳴って、小屋は海の上の小舟なやに揺れて、みしりみしり鳴っとった。

19)ま〜あ、おぞい、大(おお)吹雪だったと思いないや。

20)あたりは、一刻一刻冷えてきて。そーで、巳之吉は、蓑(みの)の下で震えちょーなったと。

21)そーだに、やっぱ寒さには勝てんで、巳之吉も寝てしまった。

 

 

【翻訳第三夜】

22)顔に雪が激しく掛かあけん、みのきちは目が覚めた。

23)小屋の戸はこじ開けらいたやに開いちょった。

24)そおで、雪明りに照らさいて、部屋の中におなごが、、、

  上から下まで白装束のおなごが居(お)った。

25)おなごは、茂作の上に屈(かが)んで、息を吹きかけとった。

26)その息は、白くてまぶしい、煙なやだった。

27)と思っちょー間に、こんだ、巳之吉のほうを向いてかがんだ。

28)巳之吉は、叫ばかと思ったに、何(なん)だい声が出らんだった。

29)白いおなごは、ジネンジネンに屈(かが)んこんで、

  しまいにゃ、顔が当たあ程(ほど)んなった。

30)おなごは、えらいエエニョバさんだったけど、

  なんと、その目はなあ、ほんにおぞかったと。

31)ちょんぼしなかい、おなごは、巳之吉をじっと見ちょった。

32)そげして、ふと笑って、こまい声でささやいた。

33)「あんたのことも、このさんと同じ目にあわさかと思ったども。

34)何(なん)だい、憐れなやな気がして。あんた、まだ若いけんねえ。

35)あんたは、ええオトコだけん、巳之吉。

  もう、何(なん)だい、あんたにはさんけん。

36)だども、もし、あんたが、今晩見たことを、ちょんぼでも誰かに話(はな)いたら、

  そうがあんたのおっ母さんでも。私にゃ分かーけんね。そげしたら、おまえを殺いちゃる。

37)……私の言いことを、くれぐれも、忘れえだないよ。」

38)そげ言いと、おなごは、顔を離いて、戸から出ていったげな。

 

 

【翻訳第四夜】

39)そのあと、巳之吉は、自分が動(いご)けーことがわかって、跳ね起きて外を見た。

40)だども、おなごはどこにもおらんだった。

41)そーで、雪は小屋の中へ、激しに吹き付けちょった。

42)巳之吉は戸をつめて、それにつっかい棒を、何本も立て掛けた。
43)巳之吉は、風が戸を吹き飛ばいただらかと思った。――あら、夢だっただらか。――
44)そーで、戸口の雪明りを、白いおなごと見違いただーかと思った。
45)だどもそーも、確かではなかった。

46)巳之吉は、茂作を呼んでみた。

47)そげしたら、茂作は返事さん。何(なん)だい、えなげな気がした。
48)巳之吉は、暗いなかで、手を伸ばいて、茂作の顔を撫でてみた。

49)そげしたら、氷なやだった。
50)茂作は硬くなって死んじょった。

 

51)明(あか)になったら、吹雪はやんだ。
52)日が出てちょんぼしして、渡し守が小屋に来うと、

  茂作の凍(こご)った身体のそばで、巳之吉が気を失って倒れちょった。

53)巳之吉は、すぐに介抱さいた。そーで、じきに、正気に戻った。
54)だども、巳之吉は、そのおぞい夜の寒さのせいで、長げこと、寝こんじょった。

55)巳之吉は、茂作が死んでからというもの、えらい怯えちょった。
56)だども、巳之吉は、白いおなごの事は、一言も言わんだった。

57)巳之吉は、ようやく元気になあと、仕事に出えやになった。
58)毎朝、一人で山へ行っては、晩方(ばんかた)、たきぎを背負って帰った。
59)巳之吉のオカカは、巳之吉をテゴして、そーを売った。

 

 

【第五夜】
60)明くう年の冬の晩かた。巳之吉は、ウチに戻お途中に、

  たまたま同(おんな)し道を歩いちょった、旅の若けオナゴに追いついた。
61)そのおなごしは、背(せい)の高け高け、ほっそーした、エラい、ええにょばだった。
62)巳之吉のあいさつに答えた娘さんの声は、まーで、

  小鳥(ことお)が歌っちょーやで、ええ心持(ここーも)ちのすー声だったと。
63)そーから巳之吉やつは、並んで話をしだいた。
64)その娘さんは、名前を「お雪」と名乗ったと。
65)そーから、先途(せんど)、二親(ふたおや)とも 亡(な)あなったこと、

  だけん、江戸へ行かかと思っちょーこと。そこに、何軒か、貧乏な親戚がおーこと。

  そのさんがたが、女中の働き口を見つけてごしなーはずだ、てことを話いた。
67)美濃吉は、じきにこの見かけん娘さんが、何(なん)だい知らんけど、好いたげな気がした。

  そーに、見りゃ見いほど、よけごと、べっぴんさんに見えてきた。
68)美濃吉は、お雪に、「おまえさん、ええシがおってかね」、と聞いた。

  お雪は、笑いながら、「そぎゃんシは、おーませんで」、とこたえた。
69)そげしたら、こんだ、お雪が、

  「お前さんこそ結婚しちょらいかね、そーか、約束でもあーかね」、と聞いた。
70)美濃吉は、お雪に、

  「世話さんといけんおっ母あは居(お)ーけど、

  わしもまだ若けけん、嫁さんのことは考えたこともねわ」と、答えた。
71)……こぎゃんやな、打ち明け話をしたあとは、

  二人(ふたー)して、長げこと、黙って、歩いちょった。
72)だども、よー言うやに「目は口ほどに物をいい」だわね。
73)村に帰ってくう時分(じぶん)には、お互いにえらい気に入っちょったげな。

 

人を凍死させる仕事(?)

今月あった『出雲弁で「雪女」』の第5回で、

もしかして、「雪女は怖いひとかも?」という話になりました。

 

雪女は、若者(巳之吉)の先輩(茂吉)を殺し、

その後何食わぬ顔をして巳之吉の前に現れ、

結婚して10人の子供まで産んでしまうのですから。

その間、ずっと巳之吉に嘘をつき続けているのは恐ろしい、

というわけです。

 

でも、ちょっと角度を変えて考えてみると。。。。

 

雪女が2度目に巳之吉の前に姿を現したとき、彼女は

「過去の自分を清算した」若い娘の姿で現れてきました。

そうすると、「人を凍死させる仕事」についていた雪女が、

若い巳之吉に恋をして殺せず、ついには自分の仕事を捨ててまで

巳之吉と暮らすことを選ぶという、なんだか女スパイもののような

ストーリーに読み替えることができそうです。

 

その線で想像をふくらませると、

雪女が「自分と会ったことを誰にも言ってはいけない」といったのは、

自分の正体が雪女だとバレると、人間界にいられなくなってしまうからで、

(この設定は『鶴の恩返し』に似てますね)

「しゃべったら殺す」というのは、本気ではなかったりして。

 

翻訳に参加したメンバーの間では、

「そういえば、天使が人間に恋して下界に降りてくる映画ってあったよね」、

などとひとしきり盛り上がりました。

 

 

出雲弁で「雪女」(第五夜ー7)

72)しかし諺にある通り『気があれば眼も口ほどにものを云い』であった。

だども、決まり文句にあーやに、目は口ほどに物をいい、であった。

 

73)村に着く頃までに、彼等はお互に大層気に入っていた。

村に帰ってくう時分(じぶん)には、お互いにえらい気に入っちょったげな。

出雲弁で「雪女」(第五夜ー6)

70)彼は彼女に、養うべき母が一人あるが、お嫁の問題は、まだ自分が若いから、考えに上った事はないと答えた。

美濃吉は、お雪に、「世話さんといけんおっかーはおーけど、わしもまだ若けけん、嫁さんのことは考えたこともねわ」と、答えた。

 

71)……こんな打明け話のあとで、彼等は長い間ものを云わないで歩いた。

ごぎゃんやな、打ち明け話をしたあとで、ふたーして、なげこと、だまって、あるいちょった。

出雲弁で「雪女」(第五夜ー5)

68)彼は彼女に約束の夫があるかと聞いた、彼女は笑いながら何の約束もないと答えた。

美濃吉は、お雪に、「おまえさん、ええシがおってかね」、と聞いた。お雪は、笑いながら、「そぎゃんもんは、おりませんで」、とこたえた。 

 

69)それから、今度は、彼女の方で巳之吉は結婚しているか、あるいは約束があるかと尋ねた。

そげしたら、こんだ、お雪が、「お前さんこそ結婚しちょーかね、そーか、約束でもあーかね」、と聞いた。

出雲弁で「雪女」(第五夜ー4)

66)そこに何軒か貧しい親類のある事、その人達は女中としての地位を見つけてくれるだろうと云う事など。

そこに、何軒か、貧乏な親戚がおーこと。そのさんがたが、女中の働き口を見つけてごしなーはずだ、てこと。

 

67)巳之吉はすぐにこの知らない少女になつかしさを感じて来た、そして見れば見るほど彼女が一層綺麗に見えた。

美濃吉は、じきにこの見かけん娘さんが、何(なん)だい知らんけど、好いたげな気がした。そーに、そのおなごが、見りゃ見いほど、よけごと、べっぴんさんに見えた。